THE UNCONSCIOUS GAMER

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旅の終りによせて。Worlds Adriftがみた夢とその挫折。

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旅の終り

昨日、2019年5月30日に、『I Am Bread』や『Surgeon Simulator』で知られるBossa Studioは自社の開発・運営する飛空艇AMMO『Worlds Adrift』の開発を中止し、サービスを終了すると発表した。

 

 

その日がそう遠くなく訪れることは私にもわかっていた。Worlds Adriftはスタートダッシュに失敗し、その後は熱心なファンに支えられながらも、その勢いが増すことはなかった。『Kenshi』のような小規模開発の作品とは異なりBossaはSeriesAで1000万ドルの調達を受けているし、大規模なオンラインサーバーの維持管理コストだけを見ても鳴かず飛ばずのタイトルにもう何年もこだわることができない、というのは明らかだった。

 

それでも。

 

それでもその日が来てしまったとき、私は嘆き悲しまずにはいられなかった。

Worlds Adriftは私の夢を詰め込んだようなゲームだった。

飛空艇、浮遊する世界、物理エンジン、大規模マルチプレイ、クラフト、ユーザー作成コンテンツ。

その理想は私が今まで見たどんなゲームよりも魅力的で、そしてあまりにも野心的だった。

 

直近のアクティブプレイヤー数の平均は200人を割り込んでいた。私も最後にプレイしたのは今年の正月だった。

けれども私を含めて、Worlds Adriftを愛してやまないファンは決して少なくなかった。ファンたちはフォーラムで活発な意見交換や創作を行い、『Worlds Adrift Island Creator』でゲーム内に登場するかもしれない浮遊島作成に精力を注ぎ、YoutubeやTwitchにたくさんのコンテンツを提供した。

ファンたちはゲームに新しいコンテンツが追加されない間も時々ゲームにインしては新しい飛空艇を作って遊び、公式から何か発表がある度に期待を込めたリアクションを返し、Worlds Adriftの旅路を見守った。決して順風満帆の航海ではなくても、旅は続くと信じていた。

 

だが悲しいことにWorlds Adriftの旅は、飛び立ってからそう遠くないところで終りを迎えてしまった。何がゲームをダメにしてしまったのか。何がWorlds Adriftを沈めてしまったのか。ファンの期待が重すぎたのか? そもそもゲーム自体の浮力が足りなかったのか? あるいは船体が巨大すぎたのか?

Bossa Studioはゲームのデベロッパー・パブリッシャーとしてそこに一定程度の理由を見出しているに違いないが、私も自身がWorlds Adriftで過ごした日々を振り返りながら、この素晴らしいゲーム体験が終りを迎えてしまった理由を少しだけ考えてみたいと思う。

 

 船出

ゲーム開発ジャムで5年前に生まれたというWorlds Adriftの存在を私が知ったのは、2016年の9月だった。

 『Guns of Icarus Online』のような飛空艇でMMOをやりたいと思っていた私の目には、とても魅力的なプロジェクトに見えた。ゲーム本体の発売に先行して既に公開されていた、ゲームに登場するかもしれない浮遊島をユーザー自身が作ることができるIsland Creatorという簡易3Dツールのようなものを触って島を作ったり、公式のフォーラムを覗いたりして発売を待った。

 その後2017年の5月にはEU圏に限って先行購入者向けクローズドβが始まったが、日本からは当然参加できず、私はネット上の情報を見たり、公式ページに登録してAllianceというゲーム内グループを作ったりして悶々としながら過ごしていた。

 そうして待ちに待った日本でのクローズドβ解禁は、2017年の9月にやってきた。

 私はとにかくこのゲームに成功して欲しくて、一番高いCaptain's Founder Packを3つ購入して、2人のフレンドを誘ってAdriftの世界へ船出した。

あまりにも嬉しかったのか9月9日には初めての、とても長いSteamレビューを投稿している。これはすぐにたくさんの人から「参考になった」を押してもらい、この作品に注目している日本人も多いと更にゲームへの期待を強くしたのを覚えている。

 

肝心のゲームプレイの方は高まりに高まった期待を超える楽しさ、想像力をかき立てる要素が詰まったものだった。飛空艇の構造から操舵室やエンジン、武器の位置まで思うがままに作ることができたし、仲間と一緒の船で旅をすることができた。拠点そのものが移動するので『Rust』のような争いを前提としたゲーム性でもなかった。

グラフィックの空気感もよく、ゲーム内で出会ったプレイヤーたちも思い思いの船でロールプレイをしたり、ひたすら島を巡ったりして楽しんでいた。まだコンテンツは少なく、サーバーの同期ずれの問題などがあったが(結局このサーバーの問題は最後までWorlds Adriftの旅路に暗い影を落とすことになる)、ファンによって作られた浮遊島はそれぞれに個性があったし、私たちは発売から1週間のうちに40時間以上の時をゲーム内で過ごした。

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ゲーム初期に作った船。島を巡ってパーツの設計図を集めて船を改造するのが主な楽しみのひとつだった。

コミュニティの期待とゲームの問題

 クローズドβの期間中から熱心なファンたちはどうしたらこのゲームがより良くなるか、フォーラムなどで活発な議論を交わしていた。また彼らはそれに留まらず、自作のコンセプトアートや崩壊した世界のバックグラウンドストーリーまで作り始めていた。

私も含めた多くのプレイヤーは、コンテンツの拡充を望んでいた。開発チームがアピールポイントの一つとして挙げていた生態系の実装は不十分で、たった二種類の生物(空飛ぶマンタと大きいハエ。それぞれ空気汚染や森林伐採で攻撃してくる)しかいなかったし、滅びた文明の遺跡を探検して報酬が得られるような要素を望むファンも多かった。

とはいえゲームはアーリーアクセスの状態だったし、徐々に家具や料理といった世界での旅を楽しむような要素も追加されていたので、ほとんどのファンは楽観的にゲームを見守る姿勢で、一通りプレイした後は「また新コンテンツが来たら戻ってこよう」とAdriftの世界を後にした。

その後Adriftの平均プレイ人口はアップデートの度に増えてはまた減ってを繰り返しながら、2018年5月の正式リリースを迎えることになる。

 

こうしたファンの期待とは裏腹に、開発チームが直面していたのは深刻なサーバー上の問題だった。プレイヤーが他のプレイヤーの飛空艇と遭遇した時に行われる読み込みの多さ(自由に配置された船のパーツの読み込みが膨大なのは想像に難くない)や、広大なワールドを移動する際に生じる「物理的な」サーバー境界でのラグで船とプレイヤーの位置同期が取れなくなる問題に悩まされ、その解決を再優先事項としていた。

今思えば、ワールドで使用されるアセットは問題なく増えていったのに生態系やギミックの追加が遅々として進まなかった理由はそのあたりにあったのだろう。

それでもプレイヤーたちは辛抱強く待ち続け、私も大きな新要素やサーバーワイプが来る度にインしていた。公式の建艦コンテストも行われたりして、プレイヤーたちは腕を競い合った。2017年の終りごろにBossaが1000万ドルの調達をして開発チームの拡大に踏み切ったこともあって、致命的でない諸問題を解決すればWorlds Adriftという素晴らしいコンセプトを持ったゲームの未来は明るいはずだった。

正式リリースと、空賊ですらないなにか

2018年の5月には、これまでとは異なるテイストの文明、島を追加する大型アップデートと共に正式リリースがアナウンスされ、ピーク時には2000人を超えるプレイヤーがWorlds Adriftの世界を旅していた。予てからあったサーバーの同期ずれ問題も大きく改善されたことで、以前ほどの不具合は起こらなくなっていた。

だが、サーバーワイプから時を経るにつれてコミュニティでは不穏な話題が議論されるようになっていった。いわゆる「空賊行為」が行き過ぎて、悪質なプレイヤーによるただの初心者狩りになっている、というのがその内容だった。Steamレビューでも空賊行為を理由に低評価をつけるユーザーが目立ち始め、Adriftのゲーム性そのものが議論される、深刻な問題となった。

実際のところ、問題とされているプレイヤーたちは悪質なプレイヤーではなかったし、空賊ですらなかった。

むしろ、彼らこそが最もWorlds Adriftというゲームを愛し、最もプレイしていた人々だったのだ。

私も何度か敵対的なプレイヤーに遭遇したことがある。初期の頃は資源やアイテムを奪おうとする「ロールプレイ」寄りの空賊だったが、正式リリース後の空賊はただ攻撃してくるもの、そして自分たちの同盟に参加するか船を沈められるか選べ、という「Join or Die」というものだった。

原因は明白だった。ゲームにあまりにもコンテンツが不足していたからだ。初心者狩りと言われるまでに大きな力の差があるプレイヤーを攻撃するゲーム的なメリットは存在しなかった。ゲームをやりこんでいる彼らは嵐や砂嵐を抜けた先にある高いTierのアイテムを全て揃えていたし、戦闘に効率的な船の構造やグリッチに近いような砲の配置も知り尽くしていた。だがいつまで経ってもコンセプトアートにあった巨大な浮遊クジラのような生物や、公式が言及していたアイテムの取引のようなシステムは来なかった。

することがなくなった彼らが行き着いた先は、PvPだった。そして同レベルの相手と戦ってももう何も得るものがない彼らにとって「快感」という唯一の報酬を手っ取り早く手に入れる方法が、自分たちよりも格下の船を襲うことだったのだ。

こうして、NAとEU、2つのサーバーにそれぞれ巨大なPvP集団が誕生した。小規模なプレイヤーグループの船に対して速力、火力、耐久力の全てで勝る船で行う狩りが彼らの日課となった。

彼らのWorlds Adriftへの愛は、大量のエンジンと羽根を備え、金属装甲で固められた、無機質で没個性的な、黒い煙と砲弾を吐き出す四角い塊へと変貌を遂げた。

***

誰よりもゲームをプレイした人々の、悲しすぎる末路だった。船を沈められたくない弱き者たちは彼らの同盟に参加することを強いられ、他の小さいプレイヤーの船を見つけては報告する密告者となった。新規プレイヤーたちはSteamに「おすすめしません」レビューを残して去っていった。

開発チームはこの問題を受けて苦渋の、そして最悪の決断をすることとなる。PvEサーバーの誕生である。

最高Tierエリア以外のPvPを禁止し、代わりにNPCの船を追加したPvEサーバーは敵対的なプレイヤーに辟易していた者たちには喝采をもって迎えられた。だがこれでPvPとPvE、NAとEUで計4つのサーバーが存在することになり、多くはなかったサーバー人口は更に減ることになった。

その後ダンジョンの追加や、ギターのようなレアアイテムの追加が行われたものの、船体重量の許す限り全てをPvPに特化した上位プレイヤーたちの四角い鉄の箱の中にはもう、ゆっくりと旅して交歓を楽しむような暖炉も、椅子やテーブルも、ギターを弾くスペースも残されてはいなかった。

 

プレイヤーの減少に追い打ちをかけるように今年の1月にはWorlds AdriftがMMO機能のベースとして使用しているSpatialOSがUnityからEULA違反を理由にブロックされるという事件も発生した。その後Worlds Adrift自体には影響が及ばない形で決着となったものの、中小規模ゲームとして開発されてきた本作の拠り所の脆さも改めて明らかとなった。

Worlds Adriftと旅して

ここまでの流れからして、Worlds Adriftの開発が中止されサービスが終了することは当然の帰結かもしれない。このゲームは自らのとても大きな野心的計画と、ファンからの重すぎる期待を受けて瓦解してしまったのだ。

それでも私が悲しまずにはいられないのは、ゲーム中での体験――仲間と船を作り、旅をし、冒険をし、他のプレイヤーに出会う――が唯一無二の、そして最高のものだったからだ。

最後にスクリーンショットと共にそうした部分を紹介しておきたい。2018年年末から2019年の正月にかけての、今のところ私が出た最後の旅だ。

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他のプレイヤーとの交流

たまたま島で出会ったソロプレイヤーと、ファウンダーパック購入者にしか手に入らない装飾パーツをきっかけに、(完全に信頼関係に依存した)取引をした。彼は私たちがまだ持っていない船のコアパーツと引き換えに、大きな彫像を船尾に飾って去っていった。

その後奇跡的に2度に渡って再会し、また物々交換をしたり「このあたりで空賊が出るらしいから気をつけろよ」という情報をもらったりした。3本マストが特徴的で、大型のガレー船のような船体を1人で操縦していた。彼の旅路が安全であるように祈った。

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ダンジョン

何度か滅びた文明のダンジョンへも入った。浮遊島に稀にあるダンジョンは、失われた技術やタレットで守られた攻略にテクニックとアイデアを求められる場所だった。開発チームが物理エンジンベースのゲームとしてやりたかったことが詰まっていたように感じた。

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美しい島

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この世の果てを思わせる

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聖堂だろうか。断片的なテキストを元に想像は膨らむ。

ユーザークリエイテッドコンテンツの目玉だった浮遊島には、本当に様々な形や建物があった。焚き火をして長居したくなるような島から、複雑な立体形状で探索が大変な島まで。

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記念撮影。King Tanaka Ⅲの甲板にて

新たに2人のフレンドがゲームを購入してくれた。こんな結末になってしまったのは残念だが、思い出は消えない。

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テーブルで

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船の形も試行錯誤があって面白い

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重装甲を試した最後の船。「狩り」をしていたプレイヤーたちと1時間に渡る空中戦を繰り広げた後、空の藻屑となった。

 

Worlds Adriftが終わってしまったら、これほどに想像力と可能性に満ちたワクワクするゲームに今後出会えるのだろうかと考えてしまう。

けれども、私は旅を続けるしかないのだ。

ひとまずのところWorlds Adriftと私たちの旅は7月に終わる。

Worlds Adriftは私たちに夢をみせてくれ、私たちもWorlds Adriftに夢みた、すばらしい旅路だった。